戴冠式が行われた英国王チャールズ三世は〝イスラーム教徒〟だった!?【山本直輝】
■クルアーンを読むためにアラビア語のレッスン受けたチャールズ3世
さらには2013年のカタール訪問の際にはイスラームの聖典クルアーンを読むためにアラビア語のレッスンを6か月にわたって受けていることを明かし、将来英国国教会の最高権威となる皇太子がクルアーンを学ぼうとしているのか、とメディアで揶揄されたこともあった。
またチャールズ三世はイスラーム美術に対しても並々ならぬ関心をもっている。彼がデザインした「カーペット・ガーデン」はトルコ絨毯の色彩と幾何学模様からインスピレーションを受けており、クルアーンに言及されているイチジク、ザクロ、オリーブの木が植えられている。
チャールズ三世はこのカーペット・ガーデンについて「ハイグローブの私の部屋にある小さなトルコのカーペットの柄と色を長年眺めてきて、その柄と色を使って庭を作ったらどんなに楽しいだろうかと感じずにはいられませんでした。カーペットの中に入っているような効果を出せるように努めました」と発言している。2001年5月に開催されたRHSチェルシー・フラワーショーでこの庭は王立園芸協会から銀賞を受賞している。
このように、たびたびメディアで揶揄されながらもチャールズ三世はイスラーム文化に対してかなり主体的な興味を持っていることは明らかであろう。
イギリスのムスリム人口は増加し続けているが、メディアはもっぱら過激派イスラーム組織のテロの脅威やムスリム移民の統合問題、イスラム嫌悪(イスラムフォビア)の問題を取り上げている。そこで描かれるムスリム像とは「我々の社会」の外からやってきた「他者」である。しかし実際にはイギリスのムスリムも移民二世、三世の時代となり、白人系改宗ムスリムの間からも世界的に発言力のあるイスラーム学者が登場するようになった。イギリスのムスリムたちの関心も「自分たちが受け入れられるかどうか」から「ヨーロッパに生まれ育ったムスリムとして独自のイスラーム文化を創造できるのか」といった問いに移行しつつある。そのようなイギリスのムスリム社会において、チャールズ三世のようなイスラーム文化に親しみを見せる王族に一定の関心と期待が寄せられるのは決して不自然な反応ではないだろう。「チャールズ三世は実は隠れムスリムなのではないか」といううわさも、イスラームはもはや分かちがたい英国社会の要素となったことの一つの表れなのではないだろうか。
文:山本直輝
<著者プロフィール>
山本直輝(やまもと なおき)
1989年岡山県生まれ。広島大学附属福山高等学校卒業。同志社大学神学部卒業、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程修了。博士(地域研究)。専門はスーフィズム、トルコ地域研究。 トルコのイブン・ハルドゥーン大学文明対話研究所助教を経て現在、国立マルマラ大学大学院トルコ学研究科アジア言語・文化専攻助教。主な翻訳に『フトゥーワ―イスラームの騎士道精神』(作品社、2017年)、『ナーブルスィー神秘哲学集成』(作品社、2018年)。
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